認定NPO法人 アサザ基金
今回は、霞ヶ浦の再生事業「アサザプロジェクト」を行ってきた、NPO法人アサザ基金様によるご寄稿です。縦割り社会を変えるビジネスモデルの提案や、街づくりに関連した小中学校での出前授業なども行っています。
HP:認定NPO法人 アサザ基金 (asaza.jp)
1:《活動内容・団体の目的》
日本で二番目に大きな湖霞ヶ浦とその流域の環境改善を進め、持続可能な循環型社会を構築するため、環境保全と地域づくりを一体化した取組みを1995年から実施してきました。当初から組織化は行わず、20名ほどのメンバーを中心に、具体的な取り組みを通してパートナーを見つけ参加者を増やしていく形で、ネットワークを広げていきました。
広大な湖と流域をカバーする取組みを実現させるために、農林水産業や地場産業、企業、学校、市民団体、行政等の多様な主体と様々な事業を興し、社会の縦割りの壁を越えた協働の輪を広げてきました。これまでに、延べ35万人以上が参加、取組み(縦割りの壁を溶かし多分野に事業展開できる能力を持つ社会的起業家の育成)を全国各地に広げるために、350校以上の小中学校で出前授業(地域に根ざしたビジネスモデル作り、地域ブランドづくり、まちづくりの提案など)を行ってきました。
アサザ基金は、子ども達と共に学び、常に新しい領域への挑戦を続けています。
霞ヶ浦にアサザなどの植生帯を復元する自然再生事業(2000年)には、170以上の小中学校、延べ15万人を超える小・中学生が参加しました。これは、日本で初めてNPOと行政が協働で行なった大規模な公共事業として、またNPOのネットワークを活かした新しい発想による公共事業として社会の注目を集めました。
2004年からは、湖の中での自然再生事業では不十分なことから、湖面積の10倍の面積を有する流域での自然再生事業を本格的に開始しました。
水田の耕作放棄により深刻化している霞ケ浦の水源地の荒廃を食い止めるため、これまで10以上の大手企業と協働で再生事業を行い、延べ2万人を超えるボランテイアが参加して、完全無農薬で酒米を栽培し地酒を生産するビジネスモデルなどを展開してきました。
霞ヶ浦で増加し問題化している外来魚を漁協に捕獲してもらい、魚粉に加工して流域の農協で有機野菜の栽培に利用してもらうビジネスモデルを展開してきました。有機野菜は、流域で事業展開しているスーパーで販売しました。
このように、多様な主体による協働事業を提案し、解決困難な問題や課題に取り組んできました。
拠点としている牛久市では、2004年から教育委員会の委託を受け、市内の全小中学校で持続可能な社会づくりの学習(ESD)を行ってきました。学習のテーマは、各学校の地域特性にあわせ、環境のみならず福祉、産業、過疎化対策、防災など多岐にわたり、問題解決型(ネガティブな発想)から価値創造型(問題解決につながる事業提案づくりポジティブな発想)への転換を生徒に促しています。
牛久市では、霞ヶ浦水源地再生の拠点を過疎集落内につくり、古民家で馬や山羊や鶏と触れ合いながら昔の農村の循環型の暮らしを体験してもらう活動も行っています。
霞ヶ浦流域で展開してきた地域づくりの学習は、各地にも広がり北九州市や秋田県、東京都、岡山県、三重県など、これまでに北海道から沖縄まで350校以上の小中学校や幼稚園、保育園で実施をしてきました。
2: 活動を始めたきっかけ
面積では日本で二番目に大きな湖沼である霞ヶ浦では、水質汚濁や生態系の悪化が問題化してきました。水質改善には1970年代から数多くの対策が講じられてきましたが、改善の見通しが示せない閉塞状況の中から生まれてきた取組みが、市民型公共事業・アサザプロジェクトです。
私たちは、霞ヶ浦の環境改善が進まない背景にあるのは、縦割り化が進んだ社会にあると考えました。既存の枠組みでは、社会全体を視野に入れた取り組みが困難であることから、縦割りの壁を越えるネットワーク型事業を流域に展開することを目指しました。これまで地域住民や企業、農林水産業、地場産業、教育機関、行政など多様な主体が参画し、それぞれに具体的な事業をとおした協働が行われています。
3:やりがいや印象的な出来事
あの大きな霞ヶ浦を再生させるための取り組みなど、市民レベルではとても不可能だと考えていましたが、ビジョンを掲げて小さな活動から始めていくと、次第に共感してくれる人たちが集まってきて、あっという間に数万人が参加するプロジェクトへと発展していきました。
小さな組織から始まりましたが、事業を大きくするために組織も大きくしていこうとは考えませんでした。自分たちの殻を破ることで生まれる新しい出会いの一つ一つを大切に生かしていくことで、既存の組織には実現できなかった広域ネットワークを社会に展開できるのだということに気づくことができました。
このような経験から、私たちは自分たちの取り組みを、良き出会いの連鎖と呼んでいます。
4:今後の目標や挑戦したいこと
多様性が重視される一方で、社会の分断化や対立の激化が進んでいる今日、私たちはこれまでの取り組みをさらに広く深く社会に浸透させていきたいと思います。
これまでのように環境という分野にとらわれず、多様性を生かした社会の実現に向けて、社会の壁を溶かして膜に変える創造的な取り組みを続けていきたいと思います。
5:読まれた方へのメッセージ
自分たちの考えや主張に固執して、異なる考えを持つ人たちとの対話を拒絶する風潮(答えの共有)から、自分を多様な人やものが出会い対話が生まれる場として開く生き方(問いの共有)が求められているのだと思います。
私たちが展開するアサザプロジェクトは、まさにそのような問いが共有される場として、社会に浸透させていきたいと考えています。
どのようにしたらうまくいくのかといった答えは用意されていません。私たちと一緒に、問いを共有して、社会の課題に取り組んでみたいという人がいたら、ぜひ声をかけてください。
もちろん、自然が好き、馬や山羊が好き、環境再生型農業に関心がある、子どもたちと一緒に考えたいといった人も、私たちの活動現場に来て体験してみてください。
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