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ボランティア団体のご寄稿

湖と共にある暮らしへ、NPO法人霞ヶ浦アカデミーの取組

網にかかった魚を子供たちが円を組んで凝視している写真

今回は、日本で2番目に大きな湖である霞ヶ浦とその流域で環境活動を行う、NPO法人霞ヶ浦アカデミー様によるご寄稿です。 葦舟の制作や子どもたちを対象とした生き物講座を行っていらっしゃいます。

HP:NPO法人霞ヶ浦アカデミー|茨城県の霞ヶ浦で環境教育活動を行うNPO法人です (k-acad.com)

1.活動内容・団体の目的

≪関東平野にある生物多様性の宝庫≫

霞ヶ浦は茨城県南部にある湖です。 ワカサギ、ウナギ、シラウオといった私たちの食卓を豊かにしてくれる魚も捕れます。 ミサゴ、チュウヒ、オオタカなどの猛禽類や、冬にやってくる幾種類ものカモ類、夏にギョギョシギョギョシと鳴くオオヨシキリなど100種を超える鳥類も観察されています。

私たちNPO法人霞ヶ浦アカデミーは、この豊かな湖を大切にしようと活動している市民団体です。 2008年に設立し、子どもたちを対象とした講座や、霞ヶ浦の環境問題についての研究活動、葦を刈って創った舟で競う葦舟世界大会の開催などを行っています。 研究者や地元事業者などで運営しており、小学生やその保護者、生物や環境問題に興味のある大学生、地元の方々の協力で活動を継続しています。

網にかかった魚を子供たちが円を組んで凝視している写真

写真1 子ども向け講座「生き物アカデミー」の様子

 

2.活動を始めたきっかけ

≪霞ヶ浦のギロチン「常陸川水門」≫

1963年、霞ヶ浦と海とのつながりを断つ常陸川水門(ひたちがわすいもん)が竣工しました。 田んぼに塩水が入って塩害を引き起こすこと、霞ヶ浦が氾濫するのを防ぐのが目的です。 のちに霞ケ浦開発事業として農業用水、工業用水、上水道の水源を確保が目的に加わりました。

一方、この開発によって湖と海を行き来する生き物は生息できなくなりました。 海の水が混じる場所でしか生息できないシジミは大量死し、捕れなくなりました。 ウナギの稚魚のシラスウナギは、潮の流れに乗って霞ヶ浦に入ってきますが、水門が閉まっているため入ってこれなくなりました。

さらに水質汚濁が問題になりました。 霞ヶ浦にアオコが大量発生し、酸素不足で養殖の鯉が大量死しました。 湖水浴場も次々に閉鎖され、子どもたちが遊ぶ場所も失われました。

長年、水質汚染の解消や漁業振興のために常陸川水門の開放や、海水の遡上をある程度容認する柔軟運用、自然条件に逆らわないかたちでの水位の操作などの要望が出されてきましたが、農業および工業用水の確保を理由にこれらの要望は受け入れられていません。

私たち、霞ヶ浦アカデミーの設立を紐解いてゆくと、常陸川水門の閉鎖を契機とした市民活動があります。

霞ヶ浦のギロチン「常陸川水門(ひたちがわすいもん)」の写真

図2 霞ヶ浦のギロチン「常陸川水門(ひたちがわすいもん)」

 

≪ニホンウナギの親は霞ヶ浦出身!?≫

日本人が大好きな魚「ウナギ」は絶滅危惧種に指定されています。ウナギの減少原因として、漁獲しすぎていることや、ダムや堰など河川環境の変化など様々な議論がされています。霞ヶ浦アカデミーの創設メンバーである浜田篤信氏(現在当会監事)は、霞ヶ浦(および利根川)のシラスウナギの漁獲量と、全国のウナギの漁獲量に相関があることを発表しました(ニホンウナギ減少原因に関する新しい仮説,水産増殖,2020)。ニホンウナギはマリアナ海溝であることが明らかになっています。霞ヶ浦は黒潮と親潮の潮目付近にあり、長い長いウナギの産卵の旅の始点かもしれないのです。

今、ニホンウナギにとって重要な霞ヶ浦が閉ざされています。霞ヶ浦でウナギが捕れなくなっているだけでなく、日本全体でウナギが絶滅の危機に瀕しているのは常陸川水門に原因があるかもしれません。

利根川水系を除く全国のウナギ漁獲量のグラフ

図3 利根川水系を除く全国のウナギ漁獲量(全国のウナギ漁獲量が減少する7-8年前に霞ヶ浦で開発が行われている)(浜田篤信氏作成)

 

≪霞ヶ浦と共にある暮らしを創る≫

常陸川水門建設などに対したくさんの疑問の声が上がりました。その活動を源流とし、(土浦市から霞ヶ浦を挟んで反対側の)行方市にも市民活動を定着させたいと2008年にNPO法人霞ヶ浦アカデミーは設立されました。

湖水浴場はなくなり、砂浜も消失した湖には、子どもたちが遊んでいる姿は見られません。漁師さんの数も減り、霞ヶ浦と暮らしは少しずつ離れた存在になってしまいました。かつて霞ヶ浦はたくさんの生き物を守るゆりかごのような存在でした。沿岸に住む人たちも、霞ヶ浦と共に暮らしていました。

霞ヶ浦アカデミーは、湖と共にある暮らしを再び作るために取組んでいます。

 

4.やりがいや印象的な出来事

≪子どもたちが自主的に作ったウナギ復活プロジェクト≫

霞ヶ浦アカデミーの中心的な活動に小学生を対象とした環境教育講座「生き物アカデミー」があります。毎月第3日曜日に県内外から小学生と保護者2~30人が集まり、霞ヶ浦の生き物を観察したり、漁業について学んだりしています。

2023年9月には、常陸川水門とウナギについて考えるワークショップを開催しました。子どもたちは、閉まっている常陸川水門の前にいるシラスウナギの映像を見て「開けろ!開けろ」とシラスウナギの気持ち(?)を叫んでいました。その後のグループワークでは、どうやったらシラスウナギが霞ヶ浦に入りやすくなるだろうか3~4人ずつのグループに分かれて話し合いました。シラスウナギ専用のエレベーターを作るといった子どもらしい可愛い意見から、水門の位置をより上流(例えば潮来市あたり)に移すことや、水門を柔軟に運用することなどの意見もありました。

イベント後には、子どもたちと保護者から、ウナギを復活させるためにジュニアプロジェクトを発足させた報告がありました。子どもたちからの意見を偉い人(??)が聞いてくれて、ウナギの湖が復活する日が楽しみです。

ニホンウナギについて学ぶ参加者の写真

図4 ニホンウナギについて学ぶ参加者

 

≪植生帯を守るために始まった「葦舟」の世界大会≫

葦(アシ、別名:ヨシ)は水辺に生える植物です。日差しを避けるために使われている葦簀(よしず)の材料となっている植物といえば分かりやすいでしょうか。地域によっては茅葺屋根にも使われます。このように葦はとても大切に扱われてきました。冬になると、枯れた葦は刈り取られ、人の生活に役立ってきました。一方、葦原は人の手が加わることで、新しい芽が生えやすくなりました。このように葦原は人の暮らしとつながっていました。

しかし近年では葦を使う文化が廃れ、葦原は荒れていきました。葦原を整備することは、たくさんの生き物の住処を守ることであり、魚が産卵する場所を守ることです。私たちは2016年から葦を楽しんで使おうと「葦舟」づくりを始めました。葦舟づくりのワークショップから始め、さらに“葦舟の競技人口”を増やそうと2021年から霞ヶ浦葦舟世界大会を主催しています。

第4回目となった2024年3月の大会では、全国各地から過去最多となる8チームが参加して、葦を刈り取り、舟を造り、その舟を使ったレースを行いました。たくさんの人が集まって舟を造ってレースを楽しみ、いつの間にか葦原も整備されているという好循環が生まれています。さらには参加者から、地元でも葦舟を造って遊んでみたという報告がちらほらあります。霞ヶ浦から全国へ、いつかは世界へ環境保全の取組を広げていきたいです。

葦舟世界大会の写真

図5 葦舟世界大会の様子、年々参加者も増えて激戦になっている

 

5.今後の目標や挑戦したいこと

私たちの活動には、参加してくださる人たちの「やってみたい」が詰まっています。「〇〇について調べたい」「〇〇をしたら霞ヶ浦はよくなるんじゃない?」という声から、それぞれが自主的に動き、その活動が繋がっています。

「霞ヶ浦と共にある暮らし」をつくるために、みんなが「やってみたい」を持ち寄って、新しい活動を作ったり、広げたりしていければと考えています。

 

6.読まれた方へのメッセージ

≪霞ヶ浦はみんなのゆりかご≫

霞ヶ浦はたくさんのもの・ことを受け入れてくれるゆりかごみたいな存在です。たくさんの生き物が生息していますし、たくさんの人が集います。霞ヶ浦アカデミーも、霞ヶ浦に興味を持った人を受け入れる存在になりたいと思っています。

お問い合わせには出来るだけ丁寧に答えたいと思っていますし、参加したい方は温かく迎えたいと考えています。少しでも興味を持った方がいらしたら、お気軽にホームページよりお問い合わせください。

 

≪学んでみよう、参加してみよう≫

ボランティア活動と聞くと、ハードルが高いと思う方もいるかも知れません。なんで活動が続けられているか疑問に思う方もいるようです。私たちの市民活動が続いている理由を考えたときに『使命』という言葉を使ったらかっこよすぎかもしれません。もちろん『使命』だと思って取り組んでいるのですが、関心を持って、楽しんで活動をしています。

興味があるから学んでみる。もっと知りたいから参加してみる。この記事を読んでくださったみなさんも、興味を持ったことを大切にしていただきたいです。

 

NPO法人霞ヶ浦アカデミー 事務局長 菊地章雄

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